新築一戸建てで平屋の間取りに関心を持ったり、相談先のハウスメーカーから提案を受けている方はいませんか?
新築間取りは二階建てでマイホーム計画を進める方が大勢で、平屋の家は少数派ではありますが、一部のハウスメーカーには平屋に特化した商品がラインナップしているケースも有り、一定の支持や関心が集まるジャンルでもあります。
平屋の家を希望する方の動機としては1階2階間の階段昇り降りの面倒を避けられるメリットに着目する方が多いようです。
特に老後を見据えたライフスタイルの変化への対応を念頭に置くとこの意識はより強まります。
老後を迎えた時にも平屋建てであれば横方向への移動だけで生活が成り立ちますから。
他方でそのような使い勝手の動機とは異なり、デザイン上のこだわりから平屋での家づくりを志向する方も見受けられます。
確かに二階建ての家と比較し、平屋建ての外観は水平ラインがより強調され特有のおしゃれ感やかっこいい家の演出が期待できます。
このような平屋独特のデザインへの憧れが「家づくりをするなら平屋」との強い支持につながるのでしょう。
しかしながらこの平屋建てを新築するにあたり、平屋固有の課題や注意点が存在する事をご存知でしたか?
そこを知らずに家づくりを進めていくと思いがけない失敗を招いてしまうかもしれません。
あらかじめ注意をはらっておきたいものです。
今回はそのあたりをお話しいたしましょう。
⬜︎ 建築コストは割高
新築住宅の価格は建物の規模やハウスメーカーごとの商品価格差だけではなく、同じ業者内でも使う部材や設備仕様によっても上下する事はご存知でしょう。
それでは同じハウスメーカーで同じ規模、設備仕様の建物であれば、建築コストは同じ額になるのでしょうか?
答えはNO。
例えば同じ床面積であったとしても、間取りの構成パターンは無数に考えられ、当然建物の形状はそれに伴い様々なパターンが考えられます。
そうしますと様々な建物形状により使用する部材量も一定とは限らず、掛かるコストが変化するのです。
つまり間取りごとの坪単価が変わって参ります。
この辺りのメカニズムは以前のコラム記事で取り上げましたので併せてご覧ください。
端的には、一般的に二階建ての建物と比較し平屋建て建物の坪単価はコスト高になります。
ハウスメーカーの営業マンへの相談の際、
「当社の建物の坪単価はこのくらいです」
と聞いていた価格では収まらない可能性が有るという事です。
見積書を見たらビックリするような価格で予算と乖離し、大きく軌道修正を余儀なくされるようでは面倒です。
建築コストの特徴、知っておきましょう。
⬜︎ 土地探しへの影響
総二階建てに対して平屋建ての間取りでは、敷地に対する占有スペースが2倍必要になります。
土地探しを伴うマイホーム計画の方は、その分余裕のある土地面積の物件を候補にしなければならないのは言うまでもありません。
例えば36坪程度の間取りの家の場合、敷地に対する建物の占有部分を単純計算すれば総二階の場合18坪程度なのに対し、平屋建ては36坪まるまる必要です。
この差を探索する土地面積に反映させておくのを忘れてはいけません。
加えて注意したいのが建ぺい率・容積率です。
土地探しの候補を市街地近郊の物件から探そうとすると、その多くが都市計画区域及び用途地域の区域内に属している場合が多く、その用途地域の指定ごとに建ぺい率・容積率が定められております。
敷地に対する建築面積(水平投影面積と言いますが概ね1階部分の面積をイメージしてください)の割合を建ぺい率、延べ床面積の割合を容積率と言いますが、これらが最も厳しい第一種低層住居専用地域の指定を受けている場合、この数字はそれぞれ40%・60%になります(50%・80%の地域あり)。
これを土地面積60坪を例にすると最大で建てられる面積はどうなるでしょうか?
まずは総二階建てを見てみましょう。
容積率から計算します。
土地面積60坪 × 60%=延べ床面積36坪までOKです。
建ぺい率は60坪×40%=24坪ですが、総二階建ての場合、延べ床面積36坪の建築面積は概ね半分の18坪前後になりますので、極端な間取り構成をしない限りは概ね36坪までの床面積の建物が建築可能という事になります。
次に平屋建て場合はどうでしょうか。
容積率については36坪までで変わりません。
問題は建ぺい率です。こちらは最大で24坪まででしたが、平屋建ての場合はこちらが建ぺい率の上限に触れてしまうのです。
つまり容積率に余裕があっても、建ぺい率の上限に触れる為、平屋の最大延べ床面積は約24坪程度という事になります(建築面積=延べ床面積ではないので実数値は多少異なります)。
ここに気付かず「まずは土地をおさえよう!」と土地探しを先行し、土地契約を済ませてから「土地面積が足りなくて全然希望の間取りが納まりきらない」なんて事になっては大失敗です。
平屋建ての建ぺい率には注意が必要です。
⬜︎ コンパクトな平屋間取り
冒頭に挙げた平屋建ての家志向の動機に加え、昨今は「コンパクトな暮らし」とでも言うべきテーマを掲げ、家づくりに取り組む方も見受けられます。
廊下や階段といったスペースを極力排除し、LDKや各個室以外はサニタリーやトイレなど不可欠な部屋のみで構成された間取りが特徴です。
例えばこんな感じの間取りです。
ご覧の通りLDKが居室としての機能に加えて、他の各室への連絡通路の役割も兼務した形になっております。
「付かず離れず、家族のコミュニケーションを大切にした暮らし」
「コンパクトな家事動線で暮らしやすい」
「シンプルに無駄を排除し、経済性も抜群」
このようなキャッチフレーズが長所として受け止められたり、提案するハウスメーカーからのセールスポイントに関心を寄せるかもしれません。
確かに無駄を排除した間取りでの暮らしは数歩の移動で事足りそうですし、家族の緊密度は高くなりそうに思えます。
また、ハウスメーカーの平屋に特化した商品も同様のコンセプトを掲げるものがよく見られます。
前述の通り本来平屋は割高なのですが、とにかくコンパクトな間取りとする事で割高なれども総額を低く抑えた「低額商品」を実現しようという企画意図なのでしょう。
とは言いながらも営業的には「ローコスト性」よりは先のコンパクト設計のキャッチフレーズを前面に出し、その暮らし方のコンセプトをセールスポイントとした販売手法を採用している様な印象です。
いずれにしましても、そのような特徴と目指している暮らし方がマッチしているのであれば有力な選択肢の一つになり得るのでしょう。
でも・・・・・・
このようなコンパクトな平屋の間取りならではのウィークポイントがある事も知った上での選択が望ましいのではないでしょうか。
ウィークポイントとは何か?
2つ考えられます。
① 音の問題
一般的に普及している間取り形態の多くはLDKを1階に配置し、ホール、階段を隔てて2階に各個室(寝室)といった構成となっており、これが皆さんにとって一番見慣れた間取りのスタイルではないでしょうか。
この場合LDKと個室の間には相応の距離と共に、相互の建具計2枚で音の出入りを減衰・遮断することができます。
しかしながら、例示したようなコンパクト設計の平屋の場合、LDKと各室間は直接に接続し建具も1枚のみの隔たりです。
こうなりますと双方の室内で発した音はかなりダイレクトに伝わってしまいます。
子供部屋で勉強中や就寝中にLDKから発生するテレビやその他の生活音、反対に個室内での音楽鑑賞がリビングで気になったり・・・・。
緩衝帯がほとんど設けられていない為、日々の生活の中でこの様な場面が少なからず起こってくるかもしれません。
② プライバシーの問題
常に家族が集まるリビング空間を介して生活が展開しますので、家族のコミニュケーションの機会が増える事がメリットとして期待出来る間取りとも言えます。
特に乳幼児期に育児の最中であったりこれからお子様の誕生を迎えようというご夫婦が、家族の理想の暮らし方のアイデアのひとつとして興味深く眼に映る方もいるのではないでしょうか。
確かに家族同士の距離感は緊密になります。
親目線で見たときには、常に子供への目配りが容易な距離感は安心感に繋がるかもしれません。
ただし・・・・
お子様が幼少期にその距離感はお互いに心地良く感じるかもしれません。
しかしながら家族みんなが成長していきます。
家族といえども心地良い距離感は成長と共にいつまでも同じでいられるでしょうか?
お子様が多感な時期を迎えるにつけ、家族との時間を大切にしながらも個のプライバシーを守りたいという気持ちが芽生えて来ることは考えられないでしょうか?
そうした場合に常に互いがタイトに接近したその距離感がちょっと窮屈に感じるかもしれません。
先に挙げた音の問題もしかり、その時節により暮らし易さは一様とは限りません。
むしろ居心地の悪い住まいになってしまったら・・・・
「今」に全てを合わせるのでは無く、家族が成長した先の暮らしもイメージしてみる余裕があってもよいかもしれません。
何も平屋の家づくりに限った話ではありませんが、新築注文住宅の場合、間取りの企画段階ではその姿を確認することは叶いません。
その中でも平屋の家は住まいの形態としては少数派であり、新築完成後の暮らしがよりイメージし難い部分があるかもしれません。
あらかじめ平屋固有の注意点を知っておく事で失敗を回避できるのであれば、それに越した事はありませんね。
もっとも・・・
確実にマイホーム計画を成功させるのであれば専門家への相談が一番!
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