仙台も秋の気配ですが、この季節になると20数年前私がハウスメーカー営業マン時代の思い出深いお客様の新築エピソードを思い出します。

新築を思い立つには家が狭い、住宅ローンをサッサと返したい、間取りが今の生活に合わない、今の家が寒い等、何かきっかけがあるはずです。

でも、ひょんなことから家づくりが始まる事もあるのです。

今回はそんな新築のきっかけにまつわる思い出話にお付き合いください。

もう20数年前、当時私は大手ハウスメーカーの営業マンとして住宅展示場に勤務しておりました。

ある良い秋晴れの日曜日の午後、ひと組のご夫婦が来場されました。

当日事務所に待機していた営業マンは私一人。

必然的に私が応対の為お出迎えに展示場玄関に向かうと、お越しいただいたのはジャージ姿のやや年配のご夫婦。

なんでも秋晴れの中、ご夫婦で紅葉の登山を楽しんだ帰り道に前を通りがかり、以前から一度見学してみたかったので寄ってみたとの事。

しかし・・・・・・。

早々に見学してみたかった動機は、ペットのニャンコが家の壁クロスを引っ掻きボロボロなので、張り替える前に今時のインテリアを参考にしたかったからとのお話。しかも住まいはまだ築十数年しか経っていないとのこと。

「因みにクロスの張替え工事はやってますか?」とのお尋ねもありましたが、あくまでも新築住宅の請負工事しか取り扱っておりません。

「そんな感じですが見学しても良いんですか?」

と問われ「ガクッ」というのが正直な気持ちですが、こういったケースはままあるお話。

ご来場のお客様全てが建築意欲満々で訪れるわけではありませんから・・・・。

内心「こりゃ仕事にはならないな」と思いながらもぞんざいにはできませんので「結構ですよ。ご覧ください」と展示場内をご案内していくと、ご夫婦はモデルルームををとても気に入って頂いているご様子。

目的のクロスについても色々ご質問が投げ掛けられます。

その内、そうした様子から私とお客様の雰囲気を新築話が盛り上がっているものと錯覚(?)したアシスタントの女性スタッフが気を利かせて飲み物を運んできました。

商談促進のサポートを、との計らいです。

でも、実際は前述の通りで仕事になりそうにはありません。

当時ちょっとばかり忙しくしていた私は「あ~。長引いちゃうヨ」と邪念がよぎりましたがその場で止める訳にもいかず「まあしょうがないや、お付き合いしよう」と覚悟を決め、着座を促しお茶を飲みながら雑談を交わしました。

そこで最近の新築住宅についての話題やインテリアの手法について「こんな方法が」「こんなアイデアも」と家づくりに関する情報をご披露するとお二人とも興味深く耳を傾けて頂き、穏やかそうな感じの良いご夫婦だったものですから私もついつい饒舌になり会話も弾みます。

そうした中、現在のお住まいについてお尋ねしてみると、築年数は全く古くは有りませんがクロスの破れだけでは無く必ずしも現居に満足していない雰囲気。

「なるほど!」と、クロスばかりでも無く、隅々を興味深く見入っていた姿が腑に落ちてきました。

素敵な住まいへの憧れがあったのですね。

果たしてどんなお住まいなのか?重ねてお聞きしてみると、よくありがちな特段特徴のある間取りやデザインとは言えず、加えて敷地を有効に使えていない印象。

落ち込ませてもしょうがありませんので、オブラートに包みながらもそんな事を伝えますと、

「どういう間取りにすればこの土地に合うのでしょう?」

とお尋ね返ってきました。

私はもうとっくに仕事にはならないと諦めてますから、セールスっ気はほぼゼロ。

ただただ理想的間取り作成のプロセスに添った解説をするだけです。

なにせ私は営業マン時代からほとんど設計士には依頼せずプランニングは自前でしたので、そんな話はお手のもんです。

「私ならココはこんな風にお勧めしますね。何故なら・・・」

てな具合ですが、何しろ予算も希望も何も把握しない状態です。

話の前提はご夫婦から敷地の状態を伝えられているのみですから理想論以上の話はしようがありません。

ところがそれがツボにハマってしまった様で「そんな風に作った間取りを見てみたい!」というリアクション。

「どうしよう・・・ついついワルノリし過ぎちゃった」

と気付いたところで「通常プランニングは無料で提供している」なんていう事を雑談の中で話しをした後のタイミングでしたので今更「描けない」とは気まずくて言えません。

営業マン的仕事の常道からすれば「築十数年と新築の動機も見当たらず、予算が決まっている訳でも無く、間取りの希望も定かでない」こんな状態で間取り図作成の約束するなんて論外。

部下がこんな約束してきたらどやしつけるところですが、余りに私の話に熱心に聞き入る穏やかなご夫婦の雰囲気についつい・・・。

おまけに私も自分で諸々解説しながら

「この土地を上手に使ったらかっこいい家が出来そうだな・・・」

と、面白そうなアイデアが湧いてくる始末。

「まあいいや。描いてみるか」

魔が差したというのか何というのか間取り案の作成を了解したのです。

但し、具体的な新築計画に添った話ではないので、予算案の作成や希望を反映させるといった工程は割愛し私の考える理想案というスタンスで宜しいか?とお尋ねするとそれで良いとのご返事。

「なんだか変なことになっちゃったな」と思いながらも約束はしてしまいましたから、

「どうせならとんでもなくかっこいい家にしちゃおう!!!」

どうせ仕事にならない話です。

普段なら予算やら何やら考慮しなければならない縛りは敷地条件以外何もありません。

こんな条件下でプランニングする機会など滅多なことではありませんから「どうせなら楽しんでしまおう」とひたすらかっこ良く、おしゃれに、素敵な生活提案を盛り込んだ間取りは現在のお住まいの約2倍の大きさにもなる延べ床面積約70坪の案。

「ちょっとやりすぎたかな」とは思いましたが、仕上がりは会心の出来栄えです。

外観もインテリアの方針も使い勝手も付加価値的アイデアも

「こんな家が建ったらかっこいいだろうな~」

と我ながらウットリするような素敵な案が出来上がりました。

さて、いよいよご夫婦へこの案をご披露する場面がやってきました。

プレゼンテーション用の間取り図を広げ、設計意図やインテリアの方針、この住まいでの生活空間といった解説を進めていきますと、ご夫婦共に大絶賛。

それはそうです。

もはや道楽の領域の作業とはいいながらもせっかく知恵を絞ったプランニング。

そうで無くては私がガッカリです。

寧ろここまでは予想通り、自己満足でミッション終了というのが描いていた筋書きです。

意外なのはそこからでした。

「これを建てると金額はどのくらいになるかしら?」とのお尋ね。

前述の通り規模としては結構まとまった規模の間取りになっていますので費用的にも相応の金額になってしまいます。

「○〇〇○万円位だと思います」とお答えすると、重ねて住宅ローンについてのご質問・・・・・・・。

そうなんです。

最後はなんとこのお家建てて頂くことになったのです。建て替えです。

その後外観デザインや内装インテリア、お庭の外構プランニングの打ち合わせも全てお任せいただき、とっても素敵なお住まいが完成しました。

あれから20数年経ちましたが、今でもこちらのご夫婦とは親しくお付き合いさせて頂いており、お会いする度に当時の家づくりの思い出話に花が咲きます。

本当のところ何が新築の決め手になったのか、私も未だによく分かりません。

お客様の言葉を借りれば「こんな家に住んでみたい」という気持ちが芽生えたという事ですが・・・。

何が新築のきっかけになるかなんて分からないものです。

お客様も営業マンもお互いに。